結論から申し上げますと、氷を炊飯器に入れることはお勧めしません。
この記事では、なぜ氷を炊飯器に入れることを進めないのか根拠を述べるとともに、氷以外でお米を美味しく炊く代替え案を提示します。
参考文献は最後に記載しています
なぜ氷を入れると美味しく炊けると言われているのか
炊飯過程のヒートパターンは、『温度上昇期』『沸騰期』『蒸し煮期』『蒸らし期』に分けられます。
氷を入れる作業はヒートパターンの『温度上昇期』に作用させるためです。
米(βデンプン)に水と熱が加わることでグルコース間の水素結合が切れて単分子となり、そこに水が入り込み膨張します。これを糊化(こか・α化・βデンプンがαデンプンに変わる)といいます。
糊化は水分と温度に影響されます。良好な糊化の条件は、水分域35%程度の時に温度が60℃前後であること。
このため、一気に温度が上がってしまうと米の吸水が遅れた状態で温度が上昇するので、糊化が遅れてしまいます。
氷をいれて温度上昇を緩やかにすることで、時間をかけて糊化が進みます。そのことにより糖が細かく分解され、噛んだ時の唾液に含まれる酵素(αアミラーゼ)で甘みをより堪能することができ、私たちはごはんを「美味しい」と感じるのです。
また、米は温度上昇期に甘味と旨味が増加します。これは米に含まれる複数種の酵素によりβデンプンの一部が分解され、グルコース(単糖類)やフルクトース(単糖類)、スクロース(二糖類)が40〜60℃で急増してほのかな甘みを呈し、また遊離アミノ酸、特にグルタミン酸やアスパラギン酸が80℃以上で多くなり旨味を増します。
氷をいれて温度上昇期を長くすることでお米が美味しくなるのは、このような過程があるためです。
以上の説明では、氷をいれることはメリットばかりのように思われる方も多いと思いますが、なぜおすすめしないのかをこれからご説明します。
炊飯器に氷を入れて炊いても大丈夫か、メーカーに問い合わせてみた
炊飯器に氷を入れることについて、非公式が語るだけでは皆さんの判断材料に欠けると思い、炊飯器に氷を入れても大丈夫なのかをメーカーに問い合わせをしました。
管理人が使っている東芝さんと、実家で使っているPanasonicさんに、炊飯器機種名も添えてお伺いしました回答が以下になります。
Panasonicからの回答
氷を入れての炊飯は検証しておらず、取扱説明書にも記載しておりますように、水道水や浄水器のお水で炊飯をお勧めしております。
弊社炊飯器は釜内の温度を確認しながら、きめ細かい火力調節を行うことでおいしいごはんを炊き上げる仕様でございます。
氷をいれずとも、吸水、炊き上げ、蒸らしの工程を自動で行い、どなたが炊飯いただいても、同じような炊きあがりになるようにお作りしておりますので、炊飯器にお任せいただければと存じます。
東芝からの回答
「氷を入れてお米を炊くと美味しくなる」につきましては、検証を行っておりませんので、美味しくなるかは、分かりかねます。氷を入れていただきましても、機械的には問題は無いかと存じますが、あまり大量に氷を入れすぎますと、炊飯中に氷が解けますので、その分お水が増えますので、炊き上がりのご飯がべちゃっと炊き上がったりする可能性はあるかと存じます。
要約しますと、Panasonicさんからは、氷は非推奨で取り扱い説明書通りの使用を案内され、東芝さんからは、機械的には問題ないが味はどうなるかわからないし、水分量には注意してねとご回答をいただきました。
こんな質問にも丁寧にご返答いただきまして、嬉しい限りです。
ファンになっちゃった
特にPanasonicさんは製品に自信があるのでしょう、「誰が炊いても美味しく仕上がる」と断言されています。
今の炊飯器は、米が美味しく炊きあがるヒートパターンが温度管理とともに設定されています。よって使用者側が氷をいれてゆっくり糊化させようとする必要はありません。
あえて手を加えることで、東芝さんの回答のように失敗のリスクが発生します。
炊飯器に任せておけば、美味しく炊いてくれるでしょう。
メーカー側の日頃の努力に感謝☆
それでもお使いの炊飯器に氷を入れてみたいというかたは、一度メーカーさんにお問い合わせすることをおすすめします。
炊飯器に氷を入れることで起こるデメリット
炊飯器に氷をいれることでのデメリットをご紹介します。
デメリット1.温度上昇期が長くなり過ぎる可能性
前章で温度上昇期を長くすることで糊化が進み、米の旨味甘味が引き出されると説明しましたが、温度上昇期は長ければ長いほど良いということもありません。
温度をゆっくりあげてしまうと、米の吸水が多くなり次の過程である『沸騰期』での水分量が少なくなってしまいます。
沸騰期こそ炊飯の最も重要な過程であり、この過程でデンプンの糊化が進み、米は全体的に柔らかく煮えた状態に変化します。
沸騰期を適切な水量で進めるためにも、温度上昇期は適度な時間でなければなりません。温度上昇期は10分程度が良いといわれています。
このように、何も考えずに氷を入れることで、適切な水分量で工程が行われない可能性があり、美味しいお米が炊ける保証はありません。
デメリット2.温度にムラが生じる
氷を入れることで、炊飯過程で温度にムラが生じる恐れがあります。
温度にムラがあると炊きあがりにムラが起こる可能性もあり、部分的に硬い炊きあがりになることも想定できます。
デメリット3.水量が適切に量れない可能性
氷を入れると水量がうまく量れずに、思い通りに炊き上がらないことが起こりえます。
みなさんは「アルキメデスの原理」を覚えておられますでしょうか。中学校の理科で習ったアレです。
アルキメデスの原理を水と氷で関連させると、氷を水中に入れると氷の重さで水中に沈む部分の体積が決まるので、溶けて水になれば沈んだ部分の体積に収まります。
このことを知っていれば、氷をいれた状態でも適切に水量を量ることはできますが、もしも知らずにはみ出た部分の体積を考慮して水位を加減してしまえば、「美味しくご飯を炊く」目的が達成されません。
そして、氷を入れることを推奨した紹介ページでは、このことに触れる説明がほぼありませんでした。
正しい水量を入れることは、お米を美味しく炊く工程に必須です。それが叶わなければ氷を入れる工程は、本末転倒な作業といえますね。
ごはんを美味しく炊くために、わたしたちができること
氷を入れないで炊飯器にお任せすることがベストであるとお伝えしましたが、さらに美味しいごはんにするために、わたしたちができることをみていきましょう。
- 米選び→精米の場合、割れが少なく、ツヤと透明感があるもので精米2週間以内のもの。玄米食の場合、無農薬もしくは減農薬。
- 米を正しく量る
- 米を水で手早く洗う
- 新米・古米・無洗米など、米によって水加減を適量にする
- 炊きあがったらすぐにしゃもじで上下反転にするように切りほぐす
簡単ではありますが、これらを意識してください。
これら過程の詳しい理由は、別記事にまとめます。
現代の炊飯器の性能を信じよう!
氷を入れること以外で、お米を美味しく炊く方法
例えば、早炊きモードを使う場合でも通常炊きあがりのクオリティがほしい思われる方がいるかと思います。
氷を使う以外で、お米を美味しく炊く工夫の代替え案を提示します。
代替え案1.にがり(塩化マグネシウム)をいれる
この方法は管理人イチオシの方法です。
にがりに含まれるマグネシウムが、米の細胞が壊れるのを防ぐことにより、水分や旨味甘味を逃さずに米にとじ込め、またお米がベタつかずに炊き上がります。
しかしながら正直に申しまして、管理人はにがりを入れて米を炊こうが普通に炊こうが、両者の味の違いがわかりません。(理由は後述。)
例え味や触感に違いが分からずとも、マグネシウムが、わたしたちに必要な栄養素であることは間違いありませんので、にがりを加えて炊いても決して損はないと考えています。
マグネシウムの重要性は、こちらの記事をご参照ください。
にがり(塩化マグネシウム)の摂取量
令和元年国民健康・栄養調査におけるマグネシウムの1日の摂取量の平均は247.1㎎であり、推奨量と比較すると不足気味であるデータが出ています。
またマグネシウムは、ストレスを感じると消耗されるミネラル分としても有名です。
このような理由から、現役世代は積極的にマグネシウムを摂取したいところです。
足りない分はサプリメントと考えますが、マグネシウムサプリメント利用時には注意が必要です。
にがりを含むサプリメントなどの通常の食品以外からの摂取量は、成人で1日に350㎎(小児の場合は体重1㎏あたり5㎎)と制限がされています。
実際ににがりの過剰摂取が原因でマグネシウム化上昇に陥り、死亡した報告もあがっていますので、サプリメントの過剰摂取には注意が必要です。(通常の食事によるマグネシウム過剰障害は報告されていないため、一般的な耐容上限量は設定されていません。)
それでは、炊飯器にはどのくらいにがりをいれたらよいのか、算出していきましょう。
※算出はメーカーにより濃度が異なる「にがり水」ではなく、「塩化マグネシウム」粉末で計算しています。
元素記号 | 原子量 | 原子 | 重量パーセント |
Mg | 24.3050 | 1 | 11.9551 |
Cl | 35.453 | 2 | 34.8771 |
H | 1.00794 | 12 | 5.9494 |
O | 15.9994 | 6 | 47.2185 |
つまり、塩化マグネシウム1g当たり、119mgのマグネシウムが含まれています。
マグネシウムサプリメントの一日摂取上限は350㎎ですので、塩化マグネシウム粉末の摂取は一日3gまでと覚えておいてください。
3gというのは上限値です。基本は食事からのマグネシウム摂取が望ましいので、足りない分をにがり・塩化マグネシウム粉末で補いましょう。
みなさんの通常の食事から摂取するマグネシウム量を考慮して、どれほど塩化マグネシウム粉末を加えたら良いかを算出ください。
どの食材にどれほどのマグネシウムが含まれるかは、こちらの記事をご参照ください。
管理人の場合は、一週間分のお米(5.5合)をまとめたて炊きますので、4gを入れて炊いています。
2.5㏄匙スプーン1杯で約2.5gです。
余談ですが、この塩化マグネシウムはお味噌汁にも0.5g加えて毎日摂取しています。
またマグネシウムは経皮摂取も可能ですので、湯船に大さじ10杯入れています。
皮膚保湿半端ないです☆
「ニチガ」というメーカーの塩化マグネシウムがコスパ良くておすすめです。
粉末タイプのにがりは吸水性半端ないので、湿気対策の上で冷蔵庫保管しておきましょう!
代替え案2.真空タイプの炊飯器
管理人は真空タイプの炊飯器を使用しています。真空タイプにすることで、浸水時間無しにお米をふっくら炊くことができます。
特に玄米もふっくら美味しく炊けることには感動しました。
にがりの説明時に、味の違いが分からなかったと言いましたのは、真空炊飯器を使っているためだと考えています。
なんて言っても、早炊きモードでも全然おいしいのです。
炊飯器の買い替えなんてコストのかかる方法で現実味がないというご意見もよくわかりますが、本当におすすめですのでご紹介させていただきます。
真空炊飯器のデメリットは、音がうるさいということです。真空時に「グゴーーーーー」と唸りをあげます。
ワンルームのお部屋で、朝炊きあがりのタイマーをした際には、炊飯器の音で目が覚めてしまうかもしれません。
おまけ 「米を炭酸水で炊くと旨くなる」はホント??
たまに見かけます「米を炭酸水で炊くと美味しくなる」という文言。
これにつきましては実験で否定されています。(精米工業 (261):2013.7 p.50-52参考)
二種目を用いた水道水との比較実験にて、「におい」「光沢」「白さ」「粘り」「硬さ」「総合評価」どれも有意義な差がないことが確かめられています。
炭酸水でお米を炊いてもただコスパが悪いだけですので、ご注意ください。
まとめ
ガスと土鍋手お米を炊く方には、氷をいれることは意味のあることかもしれませんが、現代の炊飯器技術では不要でしょう。
お米を炊くときに氷を入れるか入れないか、皆さん判断材料になりますと幸いです。
参考文献・書籍|